薄井シンシアさん流、人付き合いの心得「私はお酒を飲まなくても言いたいことを言うので、飲みニケーションは不要」「職場で人に好かれる努力はしない」

17年の専業主婦生活後、仕事復帰してキャリアを重ね、外資ホテルの日本法人社長を経て、現在は外資系IT企業で働く薄井シンシアさん(64歳)は、徹底した合理主義者。「職場で好かれる努力はしない」と言い切る半面、接待や飲み会には「誘われたら必ず参加する」と言います。人間関係の絶妙な甘辛バランスとは? シンシアさんの言動から、人付き合いのコツが見えてきました。

【写真】薄井シンシアさん、熱心に話をする姿や笑顔を浮かべる姿など。64歳の今、IT企業でバリバリ働く

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飲み会は誘われたら参加する

「職場に『飲みニケーション』が必要か?」と聞かれたら、私はお酒も飲まないので不要です。でも必要な人がいるなら企画すればいいし、誘われれば必ず参加します。

ただ、実際にはあまり誘われません。同僚たちはお酒の力を借りて本音を言うけれど、私はお酒を飲まなくても言いたいことを言うので、そういう場へ行く必要がないのかもしれませんね。

あるとき、私は同僚に「なぜ飲み会に誘われないのか」と聞いたことがあります。すると同僚は「飲み会では大抵、誰かの悪口になる。でもシンシアは悪口を聞きたがらないから呼びにくい」と言いました。

私は愚痴大会に付き合いたくありません。もし愚痴が始まったら、飲み会は終わる時間が決まっているので、それまで黙って料理を食べ続けます。私は真面目だけれど、みんなは飲み会で不真面目になりたい。だから、そういう場に私を呼ばないのかもしれません。

職場で人に好かれる努力はしない

私は職場で好かれる努力をしません。仕事というのは、嫌いな人だろうと好きな人だろうとプロとして働き、常に同じ結果を出すことが大事だと思っています。

いくら仲良しでも、職場である以上は結果が大切でしょう? 逆に言うと、きちんと仕事をする人は人間関係もうまくいきます。

私はどの会社へ行っても、半年もすれば、みんなから仕事のやり方を聞かれます。誰にでもオープンなので、「シンシアに聞けば解決する」と思われるのでしょうね。即答できないときは「ちょっと待ってね。調べておく」と伝えて、答えを探します。

職場に苦手な人がいても、仕事上は付き合うしかありません。もし相手が上司なら、どんなに嫌でも、仕事である以上はやるしかない。 私がちゃんと働いて、それでも相手が受け入れないなら「どうぞ勝手にしてください」と思います。

私はメディアに出演しているので、職場で「Twitter(現・X)をフォローしていますよ」「TVを見ていますよ」と話しかけられることもあります。そんなときは「ありがとうございまーす」と、さらっと返して終わり。もちろん、求められれば話をしますが、私から職場で出演した番組について話をすることは一切ありません。職場は仕事をする場で、個人的なことをさらけ出す場では無いでしょう?

元気が無い同僚は社食に誘う

職場で、自分から食事に誘うこともほとんどありません。精神的に自立しているから、一人で食事をすることが嫌ではないし、誘われたら一緒に食べる。それぐらいの距離感でよいと思っています。

ただ、元気がない同僚がいれば、たまに「ご飯食べる?」と社内の食堂へ誘うことはあります。たまたま出会った人が相談事を抱えていそうだったら、「あとで招待のメールを送るから、ご飯を食べに行こう」と外へ連れ出すこともあります。

そういうときの店選びは本人任せ。私はまったく食事にこだわりがないので、相手のペースに合わせます。

接待は結果を焦らない

「接待」にも付き合います。ホテル業界で働いていたときも頻繁に接待がありました。常連客を接待することもあれば、初めて来たお客さんにホテルのレストランを紹介することもありました。大抵は同じテーブルについて一緒に食事をします。

ただ、多くの人が考える「接待」は、接待の場を利用して相手との交渉を前進させることが目的でしょう? でも私の「接待」は、最初から特定の目的があるわけではなく、お互いの人間関係を築くための場だと考えています。

接待を通じて親しくなり、翌日以降のビジネスに繋がったら「よかったね」と思うし、もし繋がらなかったら「今は結びつかなかったけれど、将来は繋がるかもしれないから長い目で見よう」と考えます。

意見が合わなくても、それでいい

私は接待で、とにかくよく相手の話を聞きます。接待って社交の場でしょう? だから、いかにお客様の気持ちを知れるかが大事。自分が勧めたいものを紹介するのではなく、お客様の情報をすべて引き出して、その人に一番合ったものを提案する。それが接待の目的だと思っているからです。

私はもともと人間に興味があるので、相手の様々な話を引き出すことが苦になりません。同僚から「シンシアは仕事の話を一切しないけれど、お客様がすごくつくんだよね」と言われたこともあります。

お客様と意見が合わないときも「私たちは逆の提案を出すかもしれませんが、あなたがそちらの方法でやりたければ、どうぞ、そう説明してください」と伝えます。お客様に私たちの考えを押し付けるつもりは無いし、相手の意見にすべて合わせる必要もありません。

大使の隣は私の席

私は外交官夫人のときから質問の多い人間でした。ある都市には気難しい大使がいて、会合のときに、みんなが彼の隣に座るのを嫌がりました。だから、私はいつも彼の隣。

私が「あのときはどうだったんですか?」「このときはどんな役割だったのですか?」とよく質問をするから、大使は上機嫌になります。だって、相手が社交として自分に話しかけているのか、本当に自分に興味があるのかは、相手の態度を見れば、すぐにわかるじゃないですか?

私は人間に興味があるので、相手の説明だけでは絶対に会話を終わらせません。相手が話した内容について、必ずフォローアップの質問をします。だって私の知らない世界を聞くことができるのはチャンスだと思いませんか? 質問された人も本気で興味を持ってくれたと思って面白がってくれます。

会話が続かない人は苦手

飲み会や接待で苦手な人は、質問に答えない人です。あるとき、同僚と食事へ行ったら、みんながある男性について「あの人カッコイイよね」「あの人の近くに座りたい」と言い始めました。

私はたまたま彼の前の席でしたが、5分で席を交換しました。理由は、彼が何を聞いてもワンセンテンスの返事しかしないから。これでは全く会話が続きません。きっと彼は人生がつまらなくて、何も考えていないのでしょう。だから相手に伝えたいこともない。彼と話し続けても意味がないし、何も学べないと思ったので私は席を立ちました。

飲み会って席が自由でしょう? だからそういうときは、角が立たないように「ちょっとお手洗いに行きます」と席を立ち、さりげなく席を変えます。もし席が固定されているときは黙って食事を食べるか、横の人と話をします。

私は、相手が自分と違う考え方でも受け入れます。でも、たまに「この考えでないとダメ」と自分の意見を押し付けてくる人がいます。そういうときは「あなたは、あなたの考えでいいんじゃないですか」「どうぞー。その考えでいいんじゃないですか」と流します。

◆薄井シンシアさん

1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。

撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ

2024-04-24T02:13:08Z dg43tfdfdgfd