年間22万人が摂食障害で受診…急増する「過食症」は薬で改善できる

国立精神・神経医療研究センターの報告によると、「摂食障害」で医療機関を受診している人の数は年間22万人に上る。中でも近年、公表する芸能人も増えた「過食症」はQOL(生活の質)を大きく低下させる。「ストレスケア日比谷クリニック」院長の酒井和夫氏に聞いた。

摂食障害は、食行動を中心に心身に問題が現れる疾患の総称だ。体重増加を過度に気にして食事の量を極端に減らす「神経性痩せ症(拒食症)」と、衝動的なむちゃ食い(過食)と嘔吐や下剤で排出を繰り返す「神経性過食症(過食症)」に分けられる。

中でも近年、患者数が増加しているのが後者だ。ダイエットの成功体験がトリガーになりやすいという。

「ダイエットで脳が栄養不足になると、脳内の食欲の中枢が飢餓状態に近づいていると判断し、餓死しないよう強い食欲を生じさせます。それにより過食をすると、血糖値が急上昇し脳内に快楽物質が分泌され、報酬系を刺激します。さらに過食症の方は過食による体重増加を避けようと自分で嘔吐をするケースが多いのですが、この吐き出す行為も快楽を感じやすい。こういった報酬系の回路が一度完成してしまうと、過食嘔吐をやめたくても自分の意思ではコントロールできなくなり、数十年も抜け出せなくなるのです」

毎日体重計に乗る習慣、パートナーや周囲からかけられた体形に関する心ない言葉、厳格な体重管理が求められるバレエダンサーやモデルといった職業に就いているなど、過食症に陥るきっかけはさまざまだ。10代で発症しやすい拒食症と違い20代で発症しやすく、男性よりも女性に20倍多い。

■食べて吐いてを繰り返し…

ある30歳の女性は、大学生の頃、学園祭のミスコンに出場しようと夕食を抜くダイエットを開始。1カ月で5キロの減量に成功したがその反動から過食に走り、多い日では1日2、3回、食べては吐く生活に。頭の中は常に食べることで埋め尽くされ、帰宅途中は毎日欠かさずコンビニに立ち寄り、菓子パンを10個以上、胃に詰め込んだ。そんな生活が10年以上続いた頃、たまたま受けた歯科検診で歯が溶けていることを指摘され、歯科医師の勧めでメンタルクリニックを受診した。

「診察では、過食が始まった時期と自己嘔吐の頻度を聞きます。中でも過食症の方に共通しているのが、食べ物、主に炭水化物をコンビニで調達している点です。当院を受診される患者さんを見ると、1回の過食につき平均2000~3000円分購入している傾向があるので、診断の重要な指標のひとつになっています」

現在、日本では過食症に対する薬はない。心理療法のほか、過食に伴う「うつ」に対する薬の処方が一般的だ。ただ、大学病院における症状の改善率は5%以下と極めて低く、治療が難渋しやすい。ストレスケア日比谷クリニックでは、過食症の治療法を世界基準にするため、海外で認可されている薬の処方を行っている。

「厚労省の許可のもと、米国などで過食症に対して用いられる『フルオキセチン(商品名プロザック)』を輸入し、処方しています。過食の衝動を抑えるほか、気分の落ち込みを改善させる効果があります。当院で過去15年間で処方した2000例の症例では、症状の改善率が約85%であると分かりました。また、発症からの期間が6カ月であっても20年であっても、効果に差がないのがこの薬の特徴です」

服用から約10日で効果が見られ始め、症状が改善され始めたら過食の予兆が見られた時だけ服用するなど、様子を見ながら徐々に飲む回数を調節する。現在、ストレスケア日比谷クリニックでの処方は自費診療で、価格は1カ月約2万円。既存の治療で効果がない場合は相談してみてはどうか。

2024-04-20T00:43:34Z dg43tfdfdgfd