日本温泉科学会会長に聞いた…「温泉」はなぜ「腰痛」にいいのか

「腰痛に温泉が良さそう」と思っている人は多いだろうが、「なぜ良いのか」となると、首をかしげるのではないか。日本温泉科学会会長で、国際医療福祉大学大学院教授の前田眞治医師(リハビリテーション専門医)に話を聞いた。

◇ ◇ ◇

「温泉の腰痛への効果は、かなりの部分が科学的に証明されています」(前田医師=以下同)

温泉に漬かると体がポカポカし、それが持続する。この経験は、温泉経験者なら誰にでもあるだろう。前田医師は、健常な成人15人(平均21.7歳)に4つのタイプの風呂へ、異なる日にランダムに全身入浴してもらい、入浴前、全身浴、出浴後の深部体温を測定した。4つのタイプの風呂とは、水道水を温めたものと、いずれも温泉に該当する塩化ナトリウム(食塩泉)、炭酸水素ナトリウム(重曹泉)、二酸化炭素(炭酸泉)。湯温は41度、全身浴の時間は15分とした。

するといずれも深部体温は上がったが、水道水が1.0度の上昇に対し、食塩泉、重曹泉、炭酸泉では1.5度まで上昇。上昇スピードが速く、出浴後も深部体温が高い状態が続いた。

「人間の体温は一定に保たれるようにできており、入浴で湯に接している場所の体温が上がると、他の場所にあるまだ温まっていない血液がたくさん送り込まれ熱をもらい、その血液が他の部位に熱を放散することで、温まった場所を冷やします」

これで血流が増加。流れゆく血液で血管内皮が刺激され、血管拡張物質の一酸化窒素が放出される。すると血管が広がり血行がより促進される。

「すると栄養や修復物質の含まれた血液が組織に到達し、組織が再活性化。さらにブラジキニン、トロンボキサンA2といった老廃物や疼痛物質が洗い流され痛みが和らぐのです。水道水の家庭用の風呂でもその効果は得られますが、より体温を上げ、保温効果が長く持続する温泉の方が、効果が高いといえます」

■神経の閾値が上昇し痛みを感じにくくなる

体温上昇は、痛みに対する閾値も上げる。腰痛のような重く、じわーっとした痛みは、痛みを感じる神経のうち、C線維という細い神経が関係している。前田医師は、どれくらいの電流の強さで痛みを感じるかを調べる電流知覚閾値計を用い、湯温41度15分の全身入浴の前後の変化を調べた。

「水道水と温泉(炭酸温水)を比較すると、C線維の閾値上昇は温泉の方が水道水より上でした。閾値が大きいほど、痛みを感じにくいということになります。腰痛患者さんに炭酸温水入浴をしてもらった研究では、水道水では入浴前後の腰痛点数(数値が高いほど良好)が23.8から25.5への変化でしたが、炭酸温水では24.0から27.1へと変化し、温泉の方がより腰痛が和らぐという結果を得られました」

腰痛が和らいだのは、C線維の閾値が上がったのに加え、筋肉や腱が熱膨張して長さが伸び、緊張が低下したこと、筋緊張を高めるγ線維の活動の減少やα運動ニューロンの抑制も関係している。なお、クギを踏んづけた時のような鋭い痛みを感じる神経は体温が上昇しても敏感なままで変化しない。

最近注目されているのは、HSP70(ヒートショックプロテイン70)というタンパク質だ。

「種々のタンパク質を修復する働きがあります。このHSP70は温泉入浴などによる温熱刺激で誘導されることがわかっており、疲労後のリフレッシュに役立つ。それも腰痛改善につながるでしょう」

腰痛対策に温泉を大いに活用したい。押さえておきたいポイントは?

「温泉には地域ごとにさまざまな特徴がありますが、体温上昇に関してはどの温泉も効果がある。源泉掛け流しでなくても、加温・加水でも同様です。pH値が低い酸性の温泉は肌への影響があるので出る時に洗い流した方がいいですが、そうでなければ、洗い流さない方が出浴後の体温保持効果が長く持続します」

温泉に行けない日は湯船に湯をためてしっかり温まる。温泉より効果は落ちるものの、体温が上昇するので、腰痛対策になることは間違いない。

「『温泉のもと』のような入浴剤を使うとよりいい。赤ちゃんから高齢者まで安全に使えるよう、温泉の成分はかなり少なくなっていますが、それでも体温上昇は、水道水だけより上です」

シャワーだけで済ませるのは、少なくとも腰痛持ちにはNGだ。

2024-04-23T01:11:31Z dg43tfdfdgfd