一生世話をしなきゃいけない?障がい者の「きょうだい」の進路・結婚・親亡き後の不安【弁護士に聞く】

「きょうだい」ならではの進路や結婚の悩み

——きょうだいならではの進路の悩みとは、どのようなものでしょうか?

「実家では障がいのある兄弟姉妹が中心で、落ち着いて生活ができないので実家を出たい」「けれども、実家から離れることに罪悪感もある」「障がいに関係のある仕事をすべきか」「親から地元で就職してほしいと言われる」などがあります。

法律上は、18歳以上の成人はどこに住むかや仕事について親の許可なく自分で決められます。憲法で「居住移転の自由」「職業選択の自由」が定められている。つまり、大事なのはきょうだい自身がどうしたいかです。

——結婚に関しても、兄弟姉妹の障がいを理由に悩むことがあるのですよね。

「パートナーにいつ兄弟姉妹の障がいのことを打ち明けるか」「パートナーの親から兄弟姉妹の障がいを理由に結婚を反対されている」「遺伝に関する心配」「親は孫を期待しているけれども、子育ての大変さを見ていることによる、子どもを持つことへの不安感」「将来的に、自分の子どもが障がいのある兄弟姉妹の世話をする可能性への不安」といった話を聞きます。

全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会のアンケートでは、「付き合う前に知っていた」「付き合い始めに話す」が67%で、結婚にあたって大きな問題があったという回答は11%でした。自分の意思やタイミングを大切にしながらも、パートナーやその家族に向き合って伝えることが大切だと思います。

法律上は18歳以上は互いの合意で結婚できますので、パートナーの親から反対されていても、結婚するかは二人で決めること。パートナーが“親を捨てる”選択をすることもあれば、同棲や事実婚の選択、二人の意見が一致せずに別れることもあると思います。

子どもを持つかどうかも、あなたとパートナーが決めることです。物事を判断するためには情報が必要ですから、きょうだいの悩みを共有し、きょうだい同士の繋がりを築いている団体「きょうだい会」で子育て中のきょうだいや、おい・めいの立場の人の話を聞いてみるのもいいと思います。遺伝については、遺伝カウンセリングを受けるという選択もあります。

一生、障がいのある兄弟姉妹の世話をしなくてはいけない?

——貴著の帯に「私は一生、障害のある弟の世話をしなくてはいけないのですか?」とあります。

50項目のうち、1つ目の項目の問いをそのまま使用しました。親亡きあとについては、知的障がい者のきょうだいの方から、よくご質問をいただきます。

法律に「扶養義務」と書かれているので「やらなきゃいけないのですか?」とご質問をいただくことは多いです。ですが、扶養義務には2種類あります。夫婦や未成年の子どもに対しては、自分と同じ水準の生活をさせる強い義務がありますが、きょうだいや成人後の親子関係、祖父母と孫のような関係では、自分に余裕がある範囲で助ける弱い義務です。

「余裕がある範囲」というのも、自分の趣味やリフレッシュを犠牲にする必要はありません。自分の収入や職業、社会的地位にふさわしい生活をしたうえで、余裕があれば、という話になりますが、その状況で“余裕がある”人はほとんどいないでしょう。つまり金銭的な援助は、きょうだいの意思を尊重していいんです。

世話をするかについても、きょうだい自身が選べます。毎日関わる人もいれば、月1回、年1回という人も、ほとんど関わらない人もいます。障がいのある兄弟姉妹には、障害年金や生活保護の制度がありますし、憲法の「生存権(健康で文化的な最低限度の生活)」を守るのは国の責任です。

——全く関わらないか、親の代わりに世話をするかという「0か100か」ではなく、「親の代わりはできないものの、できることはしたい」など、きょうだいの考えもグラデーションのように異なるのでしょうか?

そうですね。きょうだいの生活の時期によっても、できることとできないこともあると思います。たとえば、新入社員のときや、自分が家庭を持ったときは実家のことどころじゃないでしょうが、自分の生活が落ち着いているなら、関わりたいという人もいる。

内容としても、月に1回遊びに連れて行くならできるけれども、書類関係は無理という人もいれば、事務手続きはやむを得ないので引き受けるものの、それ以外は関わりたくないという人もいます。きょうだいの生活の状況や適性も関わってくることですね。

——「できることはしたい」場合は、親が元気なうちに何をすればいいでしょうか?

ご両親や障がいのある兄弟姉妹本人と話してみることが、第一歩です。利用施設や福祉サービスの事業者、役所や病院の担当者のリストは、ご両親に何かあったときのための緊急時に重要です。

関わりたくない場合でも、役所や支援の担当者などに「連絡をしないでほしい」「役所からの緊急時の連絡だけほしい」などを伝えておくことで、きょうだいのためにも家族のためにもなります。

——親亡きあとについては、知的障がい者のきょうだいからの質問が多いとのことですが、兄弟姉妹の障がいによっても、悩みの傾向が変わると感じますか?

障がいの種類もですし、家庭環境、家族との関係……など様々な要因があって、一人ひとり違うと感じます。本書はどちらかというと、知的障がい者のきょうだいに寄った内容が多く、私には聴覚障がいの友人・知人が多いのですが、フィットしない部分もあるとは思います。

母親からは「障がいのある人は、あなたの活動や本に対してどう思っているの?」と何度か聞かれたことがあります。聴覚障がいや、知的障がいを伴わない発達障がいの場合は「きょうだいに迷惑をかけて申し訳ない」と話している方もいますし、一方で、知的障がいであれば、この本を読むことが難しい方も少なくない。反論できない方もいるので、申し訳なさもあるのですが、だからといって、きょうだいにも悩みや苦しみがあって、発信しないわけにもいかないので……葛藤しながら活動しています。

——私自身、重度知的障がいを伴う自閉症の弟がいるきょうだいですが、親亡きあとは子どもの頃から不安に感じていたことです。それは障がい者が自立して生活するための、社会の仕組みが不十分だからだと思います。社会の問題なので、障がいのある兄弟姉妹ときょうだいとの対立構造にはされたくないと、一人の当事者としては感じます。

法律だけでは解決できない「気持ち」の問題

——本書では「気持ちの問題は、法律だけでは解決できません」と書かれています。弁護士である藤木さんが、どのような点でそう感じたのでしょうか?

私自身の経験で痛恨の極みだと感じていることがあります。それは「職業選択の自由」が憲法に書いてあることを知っていたのに、自分ごととして一切に結びついていなかったこと。

弁護士が社会的に認められた職業だから「なっておけばいい」という思いが自分の中にあったのも事実ですが、小さい頃から父に「弁護士になって、跡を継ぐこと」と言われていたことに疑問を持たなかったですし、むしろ期待に応えられなければ申し訳ないと思っていました。

きょうだいでなければ、親の期待がここまで大きくなかったり、途中でやめたりしたかもしれないですし、親の期待に応えられないことに申し訳なさを感じずに済んだかもしれない。法律的には自由であっても、社会の雰囲気や文化的なものからも影響を受けるのだと思います。

※後編に続きます。

※試し読みはこちらから

https://chuohoki.tameshiyo.me/9784824300126

【プロフィール】

藤木和子(ふじき・かずこ)

1982年生まれ。東京大学卒業。5歳の時に3歳下の弟の聴覚障がいがわかり「きょうだい」となる。幼少期から「弟と私は将来どうなるのだろう?」「私は実家や地元を出てよいのか?」などと悩む。2010年頃から「きょうだい会」に参加。先輩の体験談からヒントを得るとともに、きょうだい特有の悩みの幅広さと難しさを痛感したことから、きょうだいの立場の弁護士として発信や相談などの活動を始める。

 

※メディアとしての表記ルールの都合上、固有名詞を除き「障がい」と記しております。

 

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。

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