家族に迷惑かけたくない…そう考えている認知症の親への対応は?【名医が答える病気と体の悩み】

【名医が答える病気と体の悩み】

認知症予備群とされる軽度認知障害(MCI)や認知症初期の段階で認知機能の低下を自覚し、「将来、家族に迷惑をかけるのではないか」と不安を抱えている高齢の方は少なくありません。なかでもアルツハイマー型認知症(AD)の方によく見られ、発症前から「何事も自分一人で解決する」といった考えを持っている人ほど周囲に頼ることができず、自身の認知症も受け入れにくいのです。ADの特徴的な症状のひとつに挙げられる「取り繕い」も、認知症を受け入れられないことから生じています。

当院に通院している80歳のADの患者さんは、MCIと診断された後、「一番なりたくない病気になってしまった」「悪くなったら息子に迷惑をかけるから早く死にたい」と、自信を失って抑うつ状態になってしまいました。介護する家族に対しての申し訳なさと、何もわからなくなることへの恐怖を感じていたためです。

本人の不安な気持ちを改善するには、家族は「そばにいるから心配ないよ」、仕事をしていた人であれば「これまで家族のために働いてくれたから、これからはゆっくりして過ごしてね」など安心できる声掛けを行ってください。男性の方ならば、買い物に行った際に重い荷物を任せる、女性ならば一緒に家事を行うなど役割を担ってもらうのも「認知症を発症しても自分は家族の力になれる」と本人が実感し自信につながるでしょう。

家族も認知症の軽度の段階では病気の受け入れが難しく、本人が間違えたり失敗したりするたびに注意したくなります。しかし、認知症の方は、自分が失敗したことを忘れても、家族から注意されて嫌だったという感情は残りますので、さらなる自信喪失につながったり、家族に対する被害感情が生じたりします。もし本人が眼鏡を洗面所に置き忘れていたとしても、忘れていたことを指摘するのではなく、そっと戻してあげるようなさりげないフォローを心がけましょう。

本人が家族に対して申し訳なさを感じ自己解決しようとするのは、家庭内では自分一人が認知症で、家族に負い目を感じているからです。家族がどれだけ配慮を行ったとしても、この状況は変わりません。このような場合は軽度の認知症当事者が集まる会への参加を勧めています。同じ悩みを抱える仲間同士で本音で話し合うことにより、「できないことが増えているのは自分だけじゃない」と気付き、やがて「認知症と付き合っていくしかない」と病気を受け入れ、家族を頼れるようになる方は少なくありません。お住まいの地域包括センターで、軽度認知症の方たちの集まりについて問い合わせるといいでしょう。

▽橋本衛(はしもと・まもる)1991年大阪大学医学部卒業、96年兵庫県立高齢者脳機能研究センター臨床研究員、2020年大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室准教授を経て、21年から現在の近畿大学医学部精神神経科学教室主任教授を務める。

2023-11-20T00:52:03Z dg43tfdfdgfd